剣は一人の敵(けんはいちにんのてき)

史記

(けん)(いち)(にん)(てき) 
意味:一人を相手にすることより、多くの人を相手にできることを学ぶべき

 (こう)(せき)(こう)())は()(しょう)の人で、(あざな)()といった。初めて兵を起こした時は二十四歳であった。末の()()(こう)(りょう)といい、(こう)(りょう)の父は()の国の将軍の(こう)(えん)であり、(しん)の国の将軍の(おう)(せん)に殺された。(こう)家は代々()の将軍で、(こう)という地に領地をあたえられていたので、(こう)氏を称していた。

 (こう)()は若いころ文字を学んだが大成せず、それを捨てて今度は剣を学んだが、それもまた大成しなかった。()()(こう)(りょう)が怒ると、(こう)()が言った。「文字は姓名が書ければ十分です。剣術は一人を相手にするものであって、学ぶには不十分です。私は万人を相手にするものを学びたいのです。」そこで(こう)(りょう)(こう)()に兵法を教え、(こう)()は大いに喜んだ。(こう)()は兵法の概略を理解すると、もはや究めようとはしなかった。

 ()()(こう)(りょう)はかつて(やく)(よう)で逮捕されたことがあったが、()の司法官の(そう)(きゅう)に手紙を頼み、(やく)(よう)の司法官の()()(きん)に届けたので、無事におさまった。その後、(こう)(りょう)は人を殺し、仕返しを避けるために(こう)()()(ちゅう)に行った。()(ちゅう)の有能な役人や名士は、みな(こう)(りょう)より下手に出た。()(ちゅう)に大がかりな(ろう)(えき)が課せられた時や(そう)()のたびに、(こう)(りょう)はいつも皆を指導し、その際にひそかに兵法を使って、客や若者たちを統率した。それによって各人の能力をよく知った。

 (しん)の始皇帝が(かい)(けい)にやってきて、(せつ)(こう)を渡った時、()()(こう)(りょう)(こう)()とともにそれを見ていた。(こう)()が言った。「あいつに取って代わってやる。」(こう)(りょう)(こう)()の口をおおって言った。「おろかなことを言ってはいけない。一族皆殺しになる。」この出来事によって、(こう)(りょう)(こう)()がただ者ではないと思った。(こう)()は身長が(はっ)(しゃく)あまり、(かなえ)を持ち上げられるほどの力持ちで、才気が人並み以上であった。()(ちゅう)の若者たちも、みなすでに(こう)()に対し遠慮していた。

『史記 (こう)()本紀』

※「(さき)んずれば人を制す」に続く

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