呉起田文に服す(ごきでんぶんにふくす)

史記

()()(でん)(ぶん)(ふく)
意味: 実力のある者が、人望のある者に従う

※「(しょう)(ちゅう)(てき)(こく))」の続き

 ()呉起(ごき)が西河の太守となり、非常に高い名声を得ていた頃、()(さい)(しょう)を任命することとなり、(でん)(ぶん)が選ばれた。この人事に呉起(ごき)は不満を抱き、(でん)(ぶん)にこう言った。「功績について議論してもよいか?」(でん)(ぶん)は「よいでしょう。」と応じた。

 呉起(ごき)が言った。「私は軍を率いて、兵士が命を惜しまぬほど忠誠を尽くし、敵国が戦を仕掛けることもできない状態にした。その点で、君と私ではどちらが優れているか?」(でん)(ぶん)が言った。「私はあなたに及びません。」
 呉起(ごき)が言った。「私は役人を管理し、民衆と親しくし、財政を豊かにした。その点で、君と私ではどちらが優れているか?」(でん)(ぶん)が言った。「私はあなたに及びません。」
 呉起(ごき)が言った。「私は西河を守って秦の軍が東進できぬようにし、韓や趙が敬意を示した。その点で、君と私ではどちらが優れているか?」(でん)(ぶん)が言った。「私はあなたに及びません。」

 呉起(ごき)が言った。「君はこれら三つ全てが私の下なのに、なぜ(くらい)は私の上なのか?」(でん)(ぶん)が言った。「主君はまだ若く、国に不安があり、大臣たちも心を寄せず、民衆も政権を信じていません。そんな時に、重責を託すべきなのは、(自分の才能を鼻にかけるような)あなたでしょうか。(人望のある)私でしょうか。」呉起(ごき)はしばらく黙って考えた末に答えた。「それは君だ。」(でん)(ぶん)が言った。「ですから、私はあなたより上の(くらい)なのですよ。」呉起(ごき)は自分が(でん)(ぶん)に及ばないことを悟った。

『史記 孫子呉起列伝』

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